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AI時代の経営戦略論はどこへ向かうか | 台頭する4つの潮流と、経営者がいま取るべき構え

公開日 2026.07.19 執筆:株式会社Nouma
AI時代の経営戦略論はどこへ向かうか | 台頭する4つの潮流と、経営者がいま取るべき構え

TL;DR / この記事の要点

「AIで経営戦略論はどう変わるのか」「次のパラダイムは何か」。この問いは、いま経営学のトップジャーナルで本格的に理論化が始まっています。「これが次の覇者だ」と確定した単一の理論はまだありません。本コラムでは、台頭する4つの潮流を整理し、経営者が「どれが当たるか」を当てにいくのではなく、いま実務として取るべき構えを示します。

「次のパラダイムは何か」という問いが、いま学界で本格化している

経営戦略論の歴史は、新しい考え方が古い考え方を完全に倒すのではなく、頭をいくつも持つ八岐大蛇(やまたのおろち)のように、複数の理論が共存しながら更新されてきた歴史です。いま、その大蛇に新しい頭が同時に生えつつあります。

注目すべきは、これがコンサル発の流行語ではなく、学界で正面から理論化が進んでいる点です。FelinとZengerによる「Theory Is All You Need」(Strategy Science, 2024)や、「Can AI Do Strategy?」と題した研究者間の論争(Strategy Science, 2026)など、AIが戦略経営に何をもたらすかをめぐる議論が本格化しています。

経営者にとって重要なのは、「どの理論が正しいか」を当てることではありません。それぞれの潮流が「競争優位の源泉はどこに移るのか」について異なる答えを出している——その地図を持っておくことです。

出発点:ポジショニング派とケイパビリティ派の「百年戦争」

新しい頭を読む前に、土台となる対立軸を押さえます。経営学者・三谷宏治氏の整理を借りれば、戦略論は大きく2つの源流のせめぎ合いで動いてきました。

経営戦略論の2つの源流を対比した図解。ポジショニング派は競争優位が「外部環境のどこに陣取るか(業界構造・立ち位置)」で決まるとし、ポーターの5Forcesが代表。ケイパビリティ派(RBV)は「内部の資源・能力」で決まるとし、VRIO・コアコンピタンス・ダイナミックケイパビリティが代表。決着せず共存してきたこの2軸の上にAI時代の4つの新潮流が生えてきた。

この2つは決着がつかず、百年戦争のように共存してきました。AI時代に生えてきた新しい頭も、突き詰めればこの「外部 vs 内部」「予測 vs 創造」という軸の上に位置づけられます。

いま生えてきた「4つの新しい頭」

AI時代に学界で理論化が進む経営戦略論の4潮流を図解。①データ・AI資源派(Iansiti&Lakhani 2020):データ・ネットワーク効果が競争優位の源泉。②AI拡張意思決定派:AIを評価者・壁打ち相手として意思決定プロセスに組み込む。③動的戦略派(CMR 2025):リアルタイムに戦略を更新するダイナミックケイパビリティのAI版。④セオリーベース派(Felin&Zenger 2024):人間の価値は独自のセオリーを立てることに移る。

① データ・AI資源派(ケイパビリティ2.0)

ケイパビリティ派の正統な後継です。ハーバードのIansitiとLakhaniによる『Competing in the Age of AI』(Harvard Business Review Press, 2020/邦訳『AIファースト・カンパニー』)が代表で、データとアルゴリズムを中核資源と捉え、データ・ネットワーク効果(使われるほどデータが貯まり、AIが賢くなり、さらに使われる)が持続的競争優位の源泉になる、という見立てです。

優位の中身が、物理資産や人材から「データ資産・学習ループ・AIエージェント」へと置き換わる。RBVのバージョン2.0という性格で、既存理論との接続がよく、理論的な足場が最も固い潮流です。

② AI拡張意思決定派

戦略の「策定プロセス」そのものが変わる、という立場です。いま最も実証研究が積み上がっている領域でもあります。戦略的意思決定は、これまで経験豊富なストラテジストの専門知・直感に依存する、純粋に人間の領域とされてきました。

そこにAIを「評価者」や「壁打ち相手」として組み込み、代替案の価値をどこまで予測・評価できるかを検証する研究が、Strategy ScienceやSMJで進んでいます。意思決定は不確実で後戻りできないからこそ、選択肢の事前評価にAIをどう使うかが問われています。

③ リアルタイム/動的戦略派

年次の戦略計画から脱却せよ、という潮流です。従来の「計画→実行」という線形プロセスから、AIの予測的洞察と人間の判断を組み合わせ、市場変化を素早く察知して戦略をリアルタイムに更新していく動的なアプローチへ。California Management Review(2025)が提示した「Strategy Evolution Model」などが代表例で、ダイナミック・ケイパビリティ論のAI版と言えます。

④ セオリーベース派(人間の比較優位の再定義)

ここが、知的に最も刺激的な「対抗する頭」です。Felin、Zengerらが牽引する立場で、あえてAIの弱点を突きます。論拠は明快です。

  • 大規模言語モデル(LLM)は本質的に「次の単語を予測して流暢な文を生成する」よう設計されており、前向きの因果的セオリー(将来こうなるはずだという仮説)を創る能力には構造的な限界がある。
  • 過去データに依拠する以上、ありきたりで広く受け入れられた戦略を再生産しやすく、戦略アイデアの新規性・独自性をむしろ減らしかねない。

ここから導かれる結論は、AIが予測を安くする世界では、人間ストラテジストの価値は「まだ誰も持っていない、将来に関する独自の仮説(セオリー)を立てること」に移る、というものです(Felin & Zenger「The Theory-Based View」Strategy Science, 2017 ほか)。

構図:AIを「源泉」にする3派 vs 人間を「再定義」する1派

俯瞰すると、対立構造はこう整理できます。

AI時代の戦略論の対立構図を示す図解。左側の①②③はAIを競争優位の源泉・道具として取り込む3派。右側の④セオリーベース派(Felin&Zenger)はAIにできないことを起点に人間の比較優位を再定義する。①が行き過ぎたときの揺り戻しとして④が人間の役割を救い出す構造。4派は共存しながら並び立ち、どれが正しいかより地図として持つことが重要。

ポジショニング派とケイパビリティ派が決着しなかったのと同じく、当面はこれらが共存し、新しい大蛇の頭として並び立つ——というのが現時点での妥当な見立てです。

あえて本命を一つ挙げるなら、土台として最も効いてくるのは①データ・AI資源派(ケイパビリティ2.0)でしょう。資源の中身がデータ資産・学習ループ・AIエージェントへ置き換わるという話は、既存理論との接続がよく現実の経営判断に直結します。ただし、それが行き過ぎたときの揺り戻しとして、④セオリーベース派が人間の役割を救い出す——この二極で動いていく可能性が高いと見ています。

Noumaの視点:経営者が「いま」取るべき構え

ここからが本題です。経営者にとって意味があるのは、「どの理論が勝つか」を当てることではなく、どの潮流が当たっても効く打ち手から先に着手することです。4つの潮流は、実は経営の実務で次のように接続します。

どの戦略パラダイムが来ても効く3つの経営の構えを図解。①データを資産に変える:業務データを学習ループの土台として自社に蓄積する構造をつくる(①派への備え)。②AIを意思決定に組み込める業務にする:判断プロセスと基準を言語化・標準化し属人的な勘を排する(②③派への備え)。③独自のセオリーを立てる余白を守る:AIに任せるほど人間が仮説を立てる時間を意図的に確保する(④派への備え)。①〜③の土台はすべて業務の標準化と仕組み化に行き着く。
  1. データを「資産」に変えておく(①への備え):業務の中で生まれるデータが、散在したまま外部ツールの中だけで消費されていないか。学習ループの土台になる形で、自社の手元に蓄積される構造をつくる。
  2.  AIを意思決定に「組み込める」業務にしておく(②③への備え):AIを壁打ち相手や評価者として使うには、判断のプロセスと基準が言語化・標準化されている必要がある。属人的な勘のままでは、AIに渡す入力すらつくれない。
  3.  人間が「独自のセオリー」を立てる余白を守る(④への備え):AIに任せる領域を広げるほど、経営者・現場が「将来に関する独自の仮説」を立てる時間と役割を意図的に確保する。

注目してほしいのは、①〜③の土台づくりは、すべて「業務の標準化と仕組み化」に行き着くことです。データが資産になるのも、AIが意思決定に組み込めるのも、業務プロセスと判断基準が整理されていることが前提になります。そしてその土台が整ってはじめて、人間は④の「独自のセオリーを立てる」という最も価値の高い仕事に集中できます。

標準化とは、現場を一律に縛る「規格化」ではありません。判断の拠りどころを揃え、AIにも人間にも渡せる形に業務を整えることです。どの戦略パラダイムが本命になっても、この土台は無駄になりません。

ご相談について

「AIで戦略がどう変わるのか、考え方の地図は分かった。では自社は何から手をつけるべきか」——ここが経営者の本当の問いだと思います。データの資産化、AIを組み込める業務設計、そして人間が独自のセオリーを立てる余白づくり。Noumaは、この土台づくりを業務の可視化・標準化から一気通貫でご支援しています。

抽象的な戦略論で終わらせず、貴社の業務と意思決定に接続する形で、現実的な次の一手をご提案します。まずは現状の業務とAI活用の状況をお聞かせください。

参考:三谷宏治『経営戦略全史』/Iansiti & Lakhani『Competing in the Age of AI』(HBR Press, 2020)/Felin & Zenger「The Theory-Based View」(Strategy Science, 2017)・「Theory Is All You Need」(2024)・「Can AI Do Strategy?」(2026)/California Management Review「Strategy Evolution Model」関連論考(2025)。本稿の記述は公開情報に基づく要約です。

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