ジョブ型人事は「運用」で決まる

TL;DR / この記事の要点
ジョブ型人事制度を導入する企業は増えていますが、リクルートマネジメントソリューションズと日経ビジネスの共同調査では、導入企業の約2割が成果を実感できていないことが分かりました。成果の差を生んでいたのは、制度の中身ではなく運用の質です。運用の壁の上位は「人事部の人員不足」と「管理職の知識・能力不足」で、職務記述書は実施企業の約3割が廃止を検討しています。本記事では調査結果を整理し、ジョブ型を「作って終わり」にせず現場で回し続けるための仕組み化の進め方を、Noumaの視点で解説します。
「ジョブ型人事制度を導入したのに、組織が変わった実感がない」。こうした声を、経営者や人事責任者の方から聞くことが増えています。
2026年8月、リクルートマネジメントソリューションズは日経ビジネスと共同で「ジョブ型人事制度の運用実態調査」の結果を発表しました。対象は、職務型・役割型の等級制度を一部でも導入している、従業員300名以上の企業の人事担当者です。調査から見えてきたのは、**ジョブ型の成否を分けるのは「何を導入したか」ではなく「どう運用しているか」**という事実でした。
本記事では、調査結果のポイントを整理したうえで、ジョブ型を「回る仕組み」にするための考え方を解説します。
そもそもジョブ型人事制度とは
ジョブ型人事制度とは、「仕事(ジョブ)」を基準に、人の採用・配置・評価・処遇を決める仕組みです。ポジションごとに役割や責任、必要なスキルを職務記述書(ジョブディスクリプション)で定め、その職務の価値に応じて報酬を決めます。
これに対して、従来の日本企業に多い「メンバーシップ型」は、人を採用してから仕事を割り当てる考え方です。年齢や勤続年数、職務遂行能力(職能)をもとに処遇が決まります。
ジョブ型は「年功的な賃金からの脱却」や「専門人材の獲得」の手段として注目されています。ただし、制度を入れるだけで組織が変わるわけではありません。
調査で分かった5つの事実
1. 導入目的の最多は「処遇のメリハリ」
導入目的で最も多かったのは「成果による処遇のメリハリ」(53.9%)でした。次いで「年功的な賃金からの脱却」(45.4%)、「採用力強化」(42.1%)が続きます。多くの企業が、まず報酬制度の改革としてジョブ型を捉えていることが分かります。
2. 約2割の企業が「成果を実感できていない」
どの目的でも、約半数の企業は成果を実感しています。一方で、約2割の企業は成果を実感できていません。同じ目的で導入しても、結果には大きな差が出ています。
特に「採用力強化」や「キャリア自律の促進」は、制度だけでは成果が出にくい目的だと示されました。
3. 成果を出す企業は「複数の仕組み」を組み合わせている
成果実感は、実施している施策の数に比例していました。施策を7つ以上実施している企業では、成果実感の肯定群が約7割に達し、施策が少ない企業との差は最大55ポイントを超えます。
また、等級の軸を1つだけでなく、職務・役割・職能などから2つ以上組み合わせている企業ほど、成果実感が高い傾向がありました。
ポイント: ジョブ型は、1つの制度で効くものではありません。自社の人材構造に合わせて、複数の仕組みを組み合わせて設計・運用する必要があります。
4. 最大の壁は制度ではなく「人」
運用上の障壁として多く挙がったのは次の項目です。
順位 | 運用上の障壁 | 割合 |
|---|---|---|
1 | 人事部の人員不足 | 34.3% |
2 | 人材マネジメントに関する管理職の知識・能力不足 | 29.4% |
3 | 人事部の企画力・専門性が低い | 27.8% |
4 | 人材マネジメントに関する管理職の権限が弱い | 25.6% |
ジョブ型は本来、管理職が現場で人材マネジメントを担うことを前提とした制度です。しかし、人事部には運用を回す人手が足りず、管理職にはスキルも権限も十分に渡っていません。その結果、「制度はあるが動かせない」状態に陥っている企業が少なくないと考えられます。
5. 職務記述書は形骸化し、関心は「人材の見える化」へ
職務記述書の作成・公開は、実施企業の約3割(32.2%)が廃止を検討しています。職務内容は事業の変化とともに変わるため、更新の手間が重く、形だけの資料になりやすいのです。
一方、今後導入したい施策の上位には「多面評価(360度サーベイ)」(27.7%)、「管理職の評価力向上研修」(27.0%)、「専門領域別のスキル評価」(25.4%)が並びました。企業の関心は、「仕事を定義する」段階から「その仕事を担える人材を把握し、配置する」段階へ移りつつあります。
Nouma視点:ジョブ型の本質は「人事制度」ではなく「仕組み化」
この調査結果は、私たちNoumaが多くの企業の業務改善で見てきた課題と共通しています。仕組みは作っただけでは機能せず、現場で回り続ける状態にして初めて成果が出る、という点です。
ジョブ型が機能しない原因を分解すると、次の3つの「属人化」に行き着きます。
課題1:職務の定義が「書いた人」に依存している
職務記述書は、一度作ると更新が止まりがちです。業務の実態と記述がずれ、誰も参照しなくなります。
解決の方向性:業務の可視化・棚卸しとセットで運用する
職務記述書を単独の人事書類として扱うのではなく、業務フローや業務一覧とひもづけて管理します。業務が変われば職務定義も更新される流れを作ることで、形骸化を防げます。生成AIを使えば、業務データから記述書の下書きを作り、差分だけを人が確認する運用も可能です。
課題2:評価とフィードバックが「管理職の力量」に依存している
調査では、成果を出す企業の共通点として「定期的なフィードバック」が挙がっています。しかし、管理職の知識やスキルには個人差があり、評価やフィードバックの質がばらつきます。
解決の方向性:マネジメント業務を型化する
評価基準、1on1の進め方、フィードバックの観点をガイドラインやテンプレートとして標準化します。管理職個人のセンスに頼らず、一定の質を担保できる状態を作ることが重要です。論点の整理やコメント案の作成をAIで支援すれば、管理職の負荷も下げられます。
課題3:運用が「人事部の人手」に依存している
人事部の人員不足は、調査で最も多く挙がった壁です。等級の格付け、評価の集計、データの管理といった定型業務に工数を取られ、本来の企画業務に手が回らない状況です。
解決の方向性:定型業務を仕組みで回し、人事は企画に集中する
評価データの集計やスキル情報の管理など、繰り返し発生する業務を洗い出し、システムやAIで自動化します。人事部が「制度を回す作業」から離れ、「制度を良くする企画」に時間を使える体制に変えることが、ジョブ型を進化させる前提になります。
ジョブ型を「回る仕組み」にする3ステップ
ステップ | やること | ねらい |
|---|---|---|
1. 可視化 | 業務・職務・スキルを棚卸しし、データとして整理する | 「誰が何をしているか」を把握できる状態にする |
2. 標準化 | 職務定義、評価基準、フィードバックの型を決める | 管理職や担当者によるばらつきをなくす |
3. 定着・自動化 | 更新・集計・分析をシステムとAIで回す | 人事部と管理職の負荷を下げ、運用を継続させる |
調査が示すとおり、これからのジョブ型は「職務を定義する」段階から「人材データを蓄積し、活用する」段階へ進みます。その土台になるのが、業務と人材を可視化し、標準化された運用で回し続ける仕組みです。
まとめ
- ジョブ型人事制度の導入企業のうち、約2割は成果を実感できていない
- 成果を分けるのは制度の中身ではなく、運用の質と施策の組み合わせ
- 運用の壁は「人事部の人員不足」と「管理職の知識・能力不足」という「人」の問題
- 職務記述書は形骸化しやすく、企業の関心は「人材の見える化」へ移っている
- ジョブ型を機能させる鍵は、業務の可視化・標準化・自動化による「仕組み化」
ジョブ型人事制度は、導入して終わりではなく、運用し続けて初めて成果が出る仕組みです。Noumaでは、業務の可視化から標準化、AIを活用した運用の定着まで、組織が自走できる仕組みづくりを支援しています。
「ジョブ型を導入したが、うまく回っていない」「人事や管理職の負荷を減らしたい」とお考えの方は、お気軽にご相談ください。
出典 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「『ジョブ型人事制度の運用実態調査』の分析結果を発表」(2026年8月24日) https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/0539564693/
